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オリジナル小説サイト『空中都市』の管理人ブログ。 近況やらたまの創作やら日々やらを綴ります。
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「会津の微衷が、朝敵の汚名で消されてしまう。負け戦は免れぬとも、それを見捨てて戦わず去るのは、俺の義ではない。──俺の誠ではない」
 新選組のため。
 そのために走って来たのは、この場こそが自分の居場所だと信じたからだ。俺の微衷を尽くせる、唯一の居場所。芹沢局長、伊東参謀、平助、服部、居なくなったかつての同士、特に御陵衛士の者たちを思い出すと、落ち着かない気分になる。申し訳ないとか、済まなかったという謝罪の言葉は出て来ない。その時は、そうするべきだと信じていた。自分の微衷を尽くすためには、そうするべきだと。
 かつての同士を裏切ることも殺すことも躊躇わなかったが、会津を見捨てると云う意見には躊躇があった。
 俺は刀を握りしめて、その場に座る。
「法度が生きているのであれば、ここで腹を切ります」
 土方さんは変わらぬ目で俺を見ていた。そうだ、この人の目だけは、京に居た頃と何一つ変わらない。強い志を秘めて、彼はいつでも真っ直ぐ前を見通すのだ。
 だがこの眼力に勝てるほどの意思を、今の俺は持ち合わせているつもりだ。中将様、容大様のためならば、それこそなんでも致そう。この鬼神丸に最後は自分の血を吸わせよう。
 ──済まぬ、お主らの存在は、大変ありがたい。
 苦しそうな顔をしながらそう云ってくれた、中将様のために。
 沈黙の続いた中、俺の隣に駆け寄って来たのは、清水だった。
「土方隊長、俺も会津で、中将様のために戦いたいと思います。斎藤さんがここで腹を切るのなら、私もここで腹切ります」
 目の前で起こっていることに、理解が及ばなかった。俺たちは戦場で生きている。慣れ合いで生きては居ない。そもそも俺は、土方さんのように人を引き付けるような何かを持っていない。
 だが清水はそう云って、その場に頭を下げた。
 土方さんは俺と清水を見比べ、それから後ろに居る隊士を見た。後ろからは戸惑いは生まれているが、皆がどのような顔をしているのかは、わからなかった。俺に見えているのは土方さんだけで、彼は溜め息を吐いたかと思うと、静かに微笑んだ。
「これで試衛館の同士はみな居なくなるってわけか」
「俺、ですか」
「他に誰が居やがる」
「いえ、……申し訳ありません」
 自分が試衛館の一員に数えられていることに驚きながら、とりあえずは謝罪する。この人でも、試衛館と武州多摩には格別の想いがある。故郷への強い想いがある。それを知っているだけに、自分が入っていることに驚き、ますます申し訳ない気持ちになった。
「斎藤、俺は自分が間違っているなんざ、思っちゃあいねぇさ。俺はこれからも、戦い続ける。たとえ一人になろうとも、俺は銃だろうが刀だろうが、石っころだろうが使って、最後の最後まで戦い続けてみせるさ」
 土方さんらしい話だが、いきなりなんの話をされているのかは、検討がついていない。俺の心はまだ、「試衛館の同士」として扱われていたことに対する驚きで留まっていて、ここに残ると決めたはずが、またぐらついてしまう。
 ここまで自分を認めてくれた人を見捨てて、俺は自分の意思を貫こうとしている。それで良いのだろうかと、何度も自問してしまう。
 そんな俺を、土方さんはことさら優しい目で見て云う。
「だからって、おまえが間違ってるわけじゃあない」
 あっさりと、しかし当然のことのように、彼は云う。
「他に会津に残る、もしくは他の意見のある者、あれば云え」
 俺は下げかけていた頭を慌てて上げた。残ると云うのは、俺と共に切腹すると云うことで、そんなもの、出て来るはずがない。
 しかし予想に反して、そそくさと俺と清水の後ろに座るものがあった。
 一緒に会津に残ると云ってくれた同士の顔は見えない。後ろに彼らが居る暖かさだけが伝わって来る。仲間と云うものは、こんなにも暖かかったのかと、京に居た頃は一度も感じなかったことを思う。
「よし。──斎藤、おまえはそいつらをまとめて最後まで会津で戦え」
「隊長」
「こいつらが、おまえが間違っていないことの、何よりの証だろう。だから腹なんか切ってる閑があれば、さっさと行け」
 云われて後ろを振り向くことが、ますますできず、俺はみっともなく刀を握りしめたまま、ただただ頭を下げていた。

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