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オリジナル小説サイト『空中都市』の管理人ブログ。 近況やらたまの創作やら日々やらを綴ります。
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「もう……少し!」
「甘いわよ……!」
 普段何事にも動じない俺でも、流石に動揺することぐらいはある。起き抜けに養母と同居人が戦っていれば、なおさらだ。
「……朝っぱらから何やってるわけ?」
 ラナさんは召喚獣を、アリスは必死に召喚壁を出して応戦している。アリスは召喚できたことなどないのだが、小さな大気霊にすらなれない魂を集めることぐらいは流石にできる。それが召喚壁。まぁ、召喚師学校に入学した子どもが1番に習うことなのだが、それでもアリスは精いっぱいなのでかわいそうなので突っ込まないでもらいたい。
「ダーク……、今、話し、かけ、ない……で……!」
 アリスに必死な顔してそう云われても、学校は待ってくれはしない。学校へ行く前に飯ぐらい平和に喰わせて欲しいのだが、大人げなく召喚できない相手に向かって、ラナさんは普通の力で応戦している。たぶんラナさんが本気を出せばアリスが一発でやられる、というかこの小さなアスル・ハヅキ地区は滅んでしまうのではないだろうか。
 そんなラナさんが弱めてはいても召喚して居るのだ、非常に恐ろしい朝である。
「あ……!」
 アリスが押されてよろけたので、俺は深々と溜め息を吐く。
蓮闇れんあん、下れ」
 大量の大気が集まって俺の蓮闇がアリスを囲うと、ラナさんの召喚獣がはじき返される。
「ちょっとダーク!」
「ラナさん大人げないよ、アリス相手にこんな大物」
「どさくさにまぎれて失礼なこと云わないでよ」
 ラナさんに怒られるのはまだしも……なんで助けたのに文句を云われないといけないんだろう、俺。ちょっと後悔しながらも朝飯のためだ。
「蓮闇、飲め」
「ああ、もう……! 聖天!」
 ラナさんが苛立ったように召喚獣を戻したので、俺も大人しく下がらせる。
「あんたはもう……いつでも何所でもアリスの味方してるんじゃないわよ!」
「いや、ラナさんちょっと待てって。今のは俺じゃあなくてもアリスの味方になっただろー?」
 どういう八つ当たり方をされているのだろう、非常に微妙な気持ちになる。
 ラナさんは今は引退していると云えど、王宮に務めることも可能だったとされる召喚師だ。最初は噂でしか知らなかったそれだが、今は俺もそれなりに力を付けたから、彼女の力の強さがわかる。そんな彼女と召喚すらまともにできないアリスが戦っていたら、誰だってアリスを助けるだろう。
 非常にまともな反論をしたのだが、思わぬアリスから不満そうに云われる。
「それじゃあ意味がないよ、せっかくラナさんがやってくれる気になったのに」
 あれ、思い切り俺の旗色悪くないか? ちょっと顔をしかめる。
「俺が助けなかったらどうなってたんだよ」
「あのね、あたしだってそれぐらいの見極め判断ぐらいはできるわよ。それよりもあたしとあんたが戦った方が人一倍危険よ!」
 ……まぁ確かに、そうかもしれない。
「まったくこのアリス莫迦は……」
「ラナさん、最近俺に対する評価、酷くない?」
「あらずっと変わってないでしょう、無愛想な子ども」
 あのさぁ。……まぁ愛想が良いと思われたいわけじゃあないんだけど。

 ようやくありつけた朝食でまたしても話題を引っ張りだすのはどうかと思ったが、アリスがしょげているので敢えて出してやる。
「で、朝っぱらからなんで戦争してたの?」
「……私、召喚できないからせめてでも召喚壁ぐらい完璧にできないかなぁと思って、ラナさんにお願いしたんだけど……」
 アリスがちらとラナさんを見れば、彼女は苦笑で返す。
「絶対駄目だって云ったのよ、アリスが耐えきれるわけがないわ。しかもあたしの力を」
 厭味ではなく絶対的に能力を持つ彼女は、冷静に考えて云っている。それは俺にもわかることだ。召喚師のてっぺんに居るラナさんからすれば、アリスなんてたかだか見習い召喚師だ。
 そうして断り続けるラナさんに、どうにか許しを得たのが今朝だったということだ。きっとラナさんが寝ぼけて適当に答えたのを、アリスが勝手に本気にしたのだと俺は推測する。
「あー……、次の試験も絶対に落ちるなぁ」
 一緒に召喚師になる、そう約束したものの、アリスから芽は出そうになかった。やはり彼女は召喚師になることなど不可能だったのではないかと思っていたが、それと同時にもう一つの可能性もある。だが俺には、そんなもの関係ない。アリスがアリスで居る限り、俺は約束を守らなければならない。
「諦めろ、次がある」
「まだ受けてないよ、試験」
「だからもうその試験は受けても良いけど諦めろ、確実に無理なんだから。次の試験を受けろ。そのうち根気強さに負けて、レール教官も気紛れに合格を出してくれるかもしれないし」
「……そんなわけないでしょう」
「ま、その頃にはアリス、もう墓に足突っ込んでると思うけど」
「ダーク!」
 冗談で誤魔化したのは、俺も近頃不穏に思っていたからである。本当にアリスが召喚師としてここまで何もできないのは、やはりおかしいのだ。召喚師なんてものは、誰でもなれるのだから。
「ま、アリスがなれない場合は、俺がおまえの上司になって呼んでやるから安心しろ」
「……ねぇ、ラナさん。どうしてこの人、必要以上に偉そうなの」
「仕方ないわ、かわいげの一切ない子どもだったもの」
 どんどん株が下がって行くのはどうしたら良いものか。
「アリスは俺と一緒に居るんだから、召喚できなくても問題ない」
「もー、結局無理だって云いたいんでしょ!」
 返される言葉に俺は苦笑してしまう。アリスには何度、そう云って来ただろう。一緒に召喚師になろうと約束したあの時から、俺は何度アリスにそう云ったことだろう。
 そうして何度、意味を汲んでもらえないのだろう。
「無理でも良いだろー、隣には必ず優秀な召喚師が居るって」
 流石に慣れた俺がいつものように返すと、やはりラナさんもいつも通り気の毒そうな顔をする。ラナさんにだけ伝わっていても意味がないんだけど。
 肝心の伝わって欲しい奴は、一度考え込んで俯いてしまった。いきなり顔を上げたかと思うと、
「あの、ダークが居てくれるのは嬉しいんだけど、やっぱり自分の力で召喚したいの」
 俺を真剣に見て答えるアリスは、やはり俺の好きなアリス・ルヴァガそのままなのだ。
 女二人に男一人、肩身は狭い。それでもここは、とてつもなく居易い。そう、あんな窮屈な場所よりもずっとずっとのびやかで楽しい。
 ──しばらくの間は、お忘れください。
 しばらくは忘れる。だがいつか思い出す時には、やはりアリスが居なければならないと思うのだった。


・・・

特に意味はなく、ダーク恋しくなっただけです(笑)
やっぱり過去っておもしろいですよねー。特に何もないんですが、シリアさんちの日常は存外に騒がしそうだなと思って。

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